3.11被災者支援活動担当の産業カウンセラーがコロナ禍で思うこと
「9年前を思い出す、重い空気を感じますね…」
協会東北支部で産業カウンセラーを養成する事業部に身を置く私が、新型コロナウイルス感染症対策のため生じている、数々の講座運営における変更事項を確認しあう電話の最中に、2019年度下期産業カウンセラー養成講座を担当いただくS教室長よりかけられた言葉です。全く同じ感覚を味わっていた私は、強く同意するとともに「あの時を思い出して、皆で協力して何とか乗り切らないといけないですね」というS教室長の言葉に強く頷いておりました。
この一か月、東日本地域において同じような思いを抱いている方が少なからずいらっしゃるのではと感じています。あの、先の見えない不安感、生活全体を包む重く息苦しい雰囲気、福島県で原発事故に遭われた方々からは、見えない敵であるウイルスと戦うという言葉に、今もはびこる放射性物質の存在を重ね、「また見えない敵と戦わないといけないのか」と嘆く声が聴こえてきそうに思います。
かく言う私も“また、桜が咲く時期に苦しいことが起きるものだなあ…”という思いから、2011年の東日本大震災に見舞われた春を思い出していました。あたり前の日常がどれほど有難いものだったのかということを、連絡のとれない親戚を案じながら、何もなくなり真っ黒になった海沿いの町を見ながら、「お１人様が購入できる商品は２点まで」と張り紙されたスーパーでまだ小さかった娘の手を引き並びながら思ったことが、ここ一か月でよみがえってきていました。
思いを口にし、耳を傾けてもらうということ
発災後、電気・ガスがようやく戻り、ほんの少し日常が姿を見せた時、それでも、親戚・友を含め全てを失くした方が同地域には多くいらっしゃる事実が大変重く、非常に辛く、先輩カウンセラーへ「…笑ってはいけないと感じながらずっと生活をしていて苦しい…」とやっと洩らしたことを今でも覚えています。その時先輩が共感をして下さったことでとても安心し、思いを口にしてみて良かったと思うことが出来たことも覚えています。
鬱屈した思い、不安などを口に出し、耳を傾けてもらうことによって身から剥がすという行為は、まさにカウンセリングが持つ力のひとつであり、震災時にも聴いていただいたり、聴いて差しあげたりをして、大いにその力を活用していたのだということを、今のこの状況下で改めて気づかされていました。
「2011年の桜は覚えていない。記憶にない」
よく被災地では聴かれた言葉ですが、翌年の春に桜を見た時には、何年かぶりに見ることができたような懐かしい気持ちにかられ、それは眩しいくらいで泣けて仕方がなく、これまで見た桜で一番美しい桜でした。
先日、新型コロナウイルスについてのHPを開設された、ノーベル生理学・医学賞を受賞された山中伸弥教授がニュース番組に出演されていた際に、「桜は間違いなく来年も咲いてくれます」と仰っていたことが印象に残っています。そして「正しく恐れてほしい」と訴えておられました。「人類は歴史上ずっと感染症と戦ってきた。新型コロナウイルスにおいても1，2年後には季節性インフルエンザと同様に扱えるようになっていると考えている。だからこそ今は、戦いは1，2カ月ではないことを覚悟して、正しく恐れてほしい」と。
必要以上に楽観も悲観もしないために、正しい情報を得ること、
その上で出来る限りの対策はとること、
そして大いに、周りの方々に自分の思いを聴いてもらい、自分も周りの方々の思いに耳を傾けることを心がけ心の健康の維持もはかること、
これらのスタンスで何とかこの急場をしのげないだろうか、と今は思っております。
現在、2019年度下期産業カウンセラー養成講座を受講中の皆さんは、6か月に及ぶ学習の総仕上げにまさに入ろうという時期を迎えていらっしゃいます。諸々の不安が大きい中で、熱心に講座受講を継続して下さっている姿には頭が下がりっぱなしです。感染対策で講座実施に延期が強いられても、何度でもスケジュールを調整し、無事に皆さんに修了していただくこと、これを私自身の当面の大目標にして努めさせていただく所存でおります。
来年のお花見を楽しみにしながら。
産業カウンセラー
一般社団法人日本産業カウンセラー協会 東北支部 養成講座部長・被災者支援活動担当
及川志保
上記と同じ内容をPDFにしています。周りの方への情報提供にご活用ください。
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