新たな時代の「私のキャリア(生き方)」を創ろう
大きな変化や先が見えない不安に「どうしたらいいかわからない」
緊急事態宣言による長い休業要請・外出自粛により、仕事や生活は大きく変わりました。
産業カウンセラー、キャリアコンサルタントとしての活動の中でも、特に働く人から以下のような声をたくさん受けています。
・企業:出張や会議がなくなり、テレワーク中心で交代出勤。個室やOA機器など自宅に仕事環境が整っておらず、やりにくい。部署や役職、正規非正規で対処に差があるのが不満。収入が減ったり、倒産などを目にすると会社もどうなるのか不安。
・医療、介護、福祉:マスクなどの物資が圧倒的に足りない。ただでさえの人手不足に拍車がかかって仕事は増すばかり。絶対開けていないといけない職場なので、感染ストレスは並大抵ではない。自分や家族が誹謗中傷を受け、さらにつらい。
・教育:休校の長期化で子供もかわいそうだが、親として生活上のストレスを感じる。自分の在宅ワークも進まない。予期せぬオンライン授業。教員はツールの理解から取り組むはめになり、職員はそんな教員と学生の対応に明け暮れている。見知らぬ土地で一人暮らしを始め、まだ友人もいない学生、アルバイトで生活していた学生、支援が届かず帰国もできない留学生。
・自営業:自粛休業、開店休業状態で家賃やスタッフの給与が払えない。生活も危ないが給付金も待たされている。続けられるのか。
だれも経験したことのない危機、先行きの見えない不安は共通ながら、その受け止め方や行動はさまざまです。
当たり前だった環境が一変して「変化に慣れない」「いつまで続くのか?」との不安や苛立ちが大きく、「早く以前の日常に戻ってほしい」「(自分ではどうしようもないので)それまで耐えるしかない」という方々。一方、現状を客観的に捉え、経済的不安はあるが「今できることを工夫してやろう」「この先も続けるためのことを考えたい」という方もおられます。
過去に戻るまで我慢するのか、今を受け止めて未来の可能性を探るのか、どちらもエネルギーは必要ですが方向性は大きく違います。
しかし、前向きに進もうとする方も、「では何をしたらいいのか?」そもそも「自分は何をしてきたのか?」「何をしたいのかわからなくなった」という新たな不安をあげています。どのように考えていけばいいのでしょうか?
ここでは、産業カウンセラーの活動3領域の一つの「キャリア形成支援」の視点から見ていきましょう。
キャリア形成の視点で「自分らしさ」を整理する
「キャリア」とは、仕事(Work)だけではなく、仕事も含めたその人の生き方(Life)そのものをさします。
語源は「車のわだち」(車が通ってできる車輪の跡)といわれ、いわば人が「生きてきた軌跡」であり、今では「この先どう生きていくか」を含めて考えていきます。様々な考え方がありますが、本協会のキャリアコンサルタント養成講習でも用いている「キャリア形成の流れとキャリアコンサルティング」(厚生労働省「キャリア・コンサルティング技法等に関する調査研究報告書の概要」より)をもとにご紹介しましょう。
6つのプロセスがあり、
1.自己理解、2.仕事(社会)理解、3.啓発的経験、4.キャリア選択にかかわる意思決定、5.方策の実行、6.新たな仕事への適応 で、ざっくりいうと「1.どんな私が」「2.どんな対象に」「4.どうしていくのか決めて」「5.やってみる」というものです。
欠かせないのが「1.自己理解」で、例えば自分のa興味・関心、b能力・適性、c価値観などをふりかえっていきます。
a「何が好きか」:思い浮かべるとほっとする、楽しくなれること、やる気が起きること
b「何が得意か」:資格や技術、経験。得意とまでいかなくても苦にならないこと、人より長くやっていることでもOK
c「何が大事か」:迷ったときにはこれで決める、これだけは捨てたくないという指針、信念、理想など
コロナ対応で仕事や生活は変化したけれど、本来の自分はそう変わっていないはず。ただ混乱や不安に紛れて見失っているのかもしれません。b能力・適性は、時系列で「どんな仕事や活動をしてきたか」「やりがいを感じたのはどんなときか」を書き出していくのもいいでしょう(厚生労働省では「ジョブ・カード」という生涯使える記録ツールも用意しています:
https://jobcard.mhlw.go.jp/)。
なかでもc価値観は「自分らしい生き方」を表すもので、人生の岐路や転機に拠り所となります。
例えば「キャリア・アンカー」(仕事の指向性)という考え方では、「人の役にたちたい」「自律的でありたい」「チャレンジしたい」「安定第一」など8つのタイプを示しています。
ただし、あくまでも自分の価値観であり、過度に一般化して「皆が〇〇すべきだ」になると自他ともに窮屈になるので注意しましょう。
「何のため?」が分かれば「何をすればいいか」見えてくる
自己理解(何のために仕事や生活をしているのか)が整理され、社会理解(コロナの時代についての適切な情報収集)ができれば、具体的な目標と課題が見えてきます。
例えば、「商品・サービスの良さを広めたい」と思っていた人は、Webを活用した新展開が考えられます。
地域の店は営業自粛だけど、Web展開で全国に顧客を広められたという例もよく聞きます。
ICT(情報通信技術)が苦手という課題があれば、詳しい人に尋ねたり、この際、支援金を使って習得するという行動もとれるでしょう。ICTに強い人は、逆に有償無償で提供できるわけですね。
このように「キャリア形成のプロセス」は、コロナに限らず人生の岐路や転機で実践的に使えるものですが、前提として「自分を安全に客観的に見られる」環境が必要です。産業カウンセラーやキャリアコンサルタントなどの専門家は、まず相談者との信頼関係を築くことでその状態をつくり、相談者が自身で意思決定して行動できるよう支援しています。
ぜひ、信頼できる人や自身の理解者、専門家の力も借りて、納得のいく「私のキャリア(生き方)」を創っていただきたいと思います。
一般社団法人日本産業カウンセラー協会
シニア産業カウンセラー・キャリアコンサルタント
平野園恵
上記と同じ内容をPDFにしています。周りの方への情報提供にご活用ください。
新たな時代の「私のキャリア(生き方)」を創ろう
お問い合わせ
本サイトについてのお問い合わせ(メディアの方・PDFの使用について等)はこちらからお願いいたします。折り返しご連絡いたします。